はじめに
身近な方が不登校、ひきこもり状態になったとき、それを受け入れるのは容易ではありません。
けれども、本人が心から「安心・安全」と思える環境でしっかり休むことができ、理解してくれる人がそばにいれば回復に向かうことができます。
また、ご家族だけで抱え込まず、適切な支援を受けることが大切です。
不登校、ひきこもりは「甘え」や「怠け」によってなるものでも、育て方が悪いからなるものでもありません。
まずは不登校、ひきこもり状態について正しく理解することから始めましょう。
博愛病院では、構造化された環境での「遊びこみ療法」を行っています。小集団の中で生活する喜びを感じていただければ幸いです。
ひきこもり状態とは
不登校、ひきこもりとは、どういう状態を言うのでしょうか。
不登校
1年間に連続又は断続して30日以上欠席した児童
ひきこもり
病名ではなく、「症状」「状態」を表す言葉です。
自宅にひきこもって、学校や会社にも行かず、家族以外の人と関わることがなく、それが長期(6か月以上)にわたる状態です。
ただし、実際の相談の場には、この定義を厳密には満たさない状態の方など様々な人が相談に来られます。
回復の経過
不登校、ひきこもりとは、どのような経過をたどり、どのような支援が必要で、どのように回復していくのでしょうか。
不登校、ひきこもりの始まり
不登校、ひきこもりが始まる前には、必ず「エネルギーの低下」があります。様々なストレスを感じ、悩み、持っているエネルギー(気力、体力、活力など)が低下して、ほぼゼロになったとき突然のように不登校、ひきこもりが始まるといえます。不登校、ひきこもりが始まったときにするべきことは、休むことです。まずはゆっくり休ませて、エネルギーの回復を待ちましょう。
エネルギーの低下と対人恐怖・集団恐怖
不登校、ひきこもり状態の方のほとんどに、エネルギーの低下だけでなく対人恐怖・集団恐怖の症状があります。いじめや嫌な出来事などのはっきりした原因で対人恐怖が生じる場合もありますが、もともとの本人の特性として対人緊張が高い場合もあります。
こうした恐怖・緊張はエネルギーの低下に拍車をかけます。
不登校、ひきこもりからの回復
「安心安全な環境」でしっかり休むことができ、「理解してくれる人」がそばにいれば、エネルギーは回復していき、恐怖症状も軽減します。エネルギーが十分に回復して初めて、ひきこもり状態も解消していきます。
逆に、「安心安全な環境」と「理解してくれる人」の存在がそろわなければ、一見休んでいるように見えても、エネルギーが十分に回復しません。恐怖症状が継続し、極端な清潔さにこだわるなどの二次障害に発展することもあります。
不登校、ひきこもり支援の全体像
不登校、ひきこもり支援の全体像は、次の4つの段階からなっています。
①家族へのアプローチ
家族がひきこもり状態について正しく理解して、適切な対応をとることで、本人と家族との関係改善を目指します。
➁本人への個別アプローチ
本人と家族との良い関係が築けると、次は家族以外の他者(支援者など)と本人との1対1の関係づくりを目指します。
本人の来所個別相談、家庭訪問などの方法があります。
③(中間的な)集団の場への参加
家族以外の他者(支援者など)と本人との1対1の関係が築けると、次は家庭以外の場で他者と交流し、社会経験を積みます。
当事者同士が集まる小さい集団の場に参加します。
④段階的な社会参加
ボランティア、復学、就労支援など、その方に合った社会参加を目指します。
不登校、ひきこもり状態からの回復は、この段階を1段1段上がっていく過程であるといえ、段階を飛ばして先に進むことができないことを心得ておくことが大切です。
お願いの言葉かけ
家族が本人にかかわるときの心がけを紹介します。
話すときの表情や口調は、「ソフトに」「誠実に」を心がけることです。
上から目線の口調や嫌味は、トラブルの元になります。
「愛情」よりも「親切な対応」を心がけましょう。
愛情は、時に「押しつけ」になります。それよりも、相手に親切にすることを心がけたほうがうまくいくでしょう。また「親戚のお子さんを預かっているくらいのつもり」で接すると良いでしょう。
禁句は、「将来のこと」「学校や仕事のこと」「同世代の友人の話」です。
本人と家族とのコミュニケーションがうまくいっていないうちは、これらの話題はトラブルの火種になります。普段の日常会話がスムーズにできるようになってからにしましょう。
もっとも大事なことは、声かけを続けることです。
「返答がなくてもよい」くらいの気持ちで、淡々と続け、しつこくせず、コツコツと、こまめに声をかけることです。忍耐がいりますが、続けることで必ず変化が起きます。
家族にできること ~会話の手始めとして~
不登校、ひきこもり状態からの回復には、コミュニケーションの回復が必須です。
本人との会話の手始めとして、「あいさつ」「誘いかけ」「お願い」「相談」が取り組みやすい事柄です。
これらは、家族が声をかけやすく、本人も応じやすいといえます。
あいさつ
「おはよう」「おやすみ」「買い物に行ってくるよ」「5時ごろには帰るよ」などと声をかけましょう。返事がなくても気にしすぎず、しつこく言わず、さらっと一言声をかけるのがポイントです。そして最も大切なのは、続けることです。
誘いかけ
「図書館に行くけど一緒に行かない?」「お茶を飲むけど一緒にどう?」などと気軽に声をかけましょう。家族の幼児に付き合ってもらう感覚で声をかけるのがポイントです。
お願いとお礼
「洗濯物たたんでおいてくれると助かるなぁ、お願いね」などとお願いしてみましょう。お願いする事柄は、やることが具体的で、マイペースででき、短時間で終わるものがオススメです。本人が応じてくれたときには、必ず「ありがとう」などとお礼を伝えましょう。
相談
「パソコンを買おうと思うんだけど、どんなのがいいかな?」「今日の夕食は何にしよう?」などと日常の事柄を相談してみましょう。ささいなことであればあるほど、気軽な気持ちで話すきっかけになりいます。
大切なことは、声かけを続けることです。
返答がなくても「それでいい」「そんなもんだ」くらいの気持ちでいると続けやすいです。
継続することで、必ず変化が起こってきます。
構造化された環境 ~小集団での遊びこみ~
博愛病院では、特性に応じ構造化を図ります。
小集団での遊びこみ療法を行っています。
当院の活動は、各専門の技術者が担当しています。
構造化された環境・心地よい小集団での遊びこみで期待されること
コミュニケーション能力の向上
日常生活スキルの向上
居場所の確保
友達の増加
二次障害の予防
自信の回復
復学
才能の発見、才能の開花
楽しみの発見
その他
学校との連携
定期的に連携を図り、復学支援を行っていきます。当院のスタッフも学校へ派遣することも可能です。
家族相談
不安なこと、今後の事などの相談を承ります。抱え込まず、何でもご相談ください。
家庭訪問
ご希望の方は、ご相談ください。
お問い合わせ
ご家族だけで抱え込まず、お気軽にご相談ください。
医療法人謙誠会
博愛こども成育医療センター
〒870-0868
大分県大分市大字野田1111番地
TEL:097-586-5566
FAX:097-586-0889
参考文献
ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン:厚生労働省(2010)
「ひきこもり」救出マニュアル〈理論編〉:斎藤 環(2014)
大人のアスペルガー、子どものアスペルガー:原田 豊(2013)
